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タイ航空の事業再生、迷走入り。再生計画固まらず
タイ航空が裁判による再生の道を歩みはじめてから、2ヶ月経過したが、再生の道が遠く、問題だらけであった。5月26日に、再生手続きの開始とともに、債務者側の再生計画策定委員会、合計7名のリストが裁判に提出され、27日に受理された。一見順序に進んだような再建計画だが、それでも、権益関連やずさんな運営などでスタートから問題が続いていた。その中身を見てみよう。
全体を理解するため、まず、再生計画策定のガバナンスを把握しよう
債務者側の再生計画策定委員会には、個人6名と法人1名があり、空軍出身のタイ航空取締役会長、そして、政界、財界、元官僚出身の有識者によって構成され、また、航空事業の再生経験が期待され、タイで再生計画策定のライセンスを保有している、アーンスト・アンド・ヤング系のEYコーポレート・アドバイザリー・サービス社も法人として入っている。(その後、天下り規制に抵触する可能性があるとして、元交通副大臣のパイリンさんがすぐ辞任を表明し、個人5名に減った。)
また、政府側からは、関連省庁からの大臣や元大臣、そして、現役の官僚、9名によって構成されているタイ航空問題解決の進捗管理委員会を立ち上げられ、政策的な側面から再生計画策定委員会を監視・助言する役割を持つ。
そして、一番重要な顧問チームにも、有名な事務所の名前が並んでいた。
- ベーカー&マッケンジー、法律および契約関係の顧問
- フィナンサ、財務関係の顧問
- マッキンゼー・アンド・カンパニー、航空事業の専門として将来の航空事業のビジネス計画の顧問
- EYコーポレート・アドバイザリー・サービス、再生計画策定の委員として加盟。タイで再生計画策定のライセンスを保有し、タイで再生計画策定に経験がある。
上記のようなビッグネームでも、また、以下のようなビッグネームだからこそ、問題が続出していた。
共同法律顧問を設置するようロビーが続き、ベーカー&マッケンジーが脱退寸前
ベーカー&マッケンジー社がすでにタイの中央破産裁判所に対してタイ航空の事業再生手続きを済ませ、債権者のある9カ国で同手続きを進めようとしているタイミングに、共同法律顧問の話が浮上した。タイ航空の内外から再生計画委員会に圧力がかかり、国内外の法律顧問を分けてほしい。
国内外ですでに30−40人の人員を確保したベーカー&マッケンジーからは、もし、国内外の法律顧問を分けたら、再生計画や債権者との交渉・調整がより難しくなるため、その方向だったら、脱退すると口頭で再生計画委員会に伝えたことがある。
EYコーポレート・アドバイザリー・サービスが、実は、航空事業に経験なし
すでに、2000万バーツのアドバイザリー報酬を支払ったが、7月半ばの時点においては、まだEYから何も計画が提出されていなかった。実は、タイのEYには、航空事業の再生経験がなく、経験があるのは、海外のEYの方だった。
ある委員によると、タイのEYとは2回ほどミーティングを重ねた時点で、次回のミーティングに回すような話ばかりだったが、3回目のミーティングでようやく航空事業に経験がないことを認めた。その後、海外のEYを連れてきて、プレゼンしてもらったところ、本当に経験ありとわかったが、その海外EYが契約主体ではなかった。また、タイ航空とEYとの契約の中にも、8月17日に裁判が債務者であるタイ航空を再生計画策定者に指名したら、EYが再生計画に関する作業を開始するとなっていて、現時点、EYが何も提出しなくても違反にならない。問題は、今から再生計画を策定しなければ、8月17日に裁判に何を提出するだろうかということ。
航空事業に経験がある他社を探すことになっていて、アクセンチュアのパートナーであるSeabury社とマッキンゼー・アンド・カンパニーから、それぞれ、1億バーツと3500万バーツの料金が提示された。両社と交渉した結果、8000万バーツと、1750万バーツになったため、安い方のマッキンゼーに決まった。マッキンゼーは、アメリカン・エアラインの再生計画に経験があり、タイ国内においても大手石油化学企業(IRPC社)の再生を担った経験があった。また、提出された再生計画も出来が良く、タイ航空の問題点や、航空機の現状分析、そして、今後どう運営するかにも触れ、委員の大多数がマッキンゼーを選んだ。
このように、タイ国内でライセンスがあるEYに加えて、航空の専門家としてマッキンゼーも入ることになった。
人事に介入しようとした委員をストップしたら、ストップをかけたその委員が委員会が外される噂に
今回、外れる噂が出たのは、元エネルギー大臣のピヤサワットさんである。現在、タイ航空は、12人の取締役によって構成され、その中の5人が再生計画策定委員会を兼任している。7月17日の取締役会において、日常的なオペレーションを見ているタイ航空の社長(DD)と一緒に、人事をみたいという取締役がいた。それに対して、ピヤサワットさんからは、取締役が再生計画に関するポリシーだけに徹底し、人事に介入してはいけないと異議を唱えた。人事は、社長の仕事で、取締役が手を出したら信頼されなくなるという。それで、取締役会が終わったあとは、ピヤサワットさんを外してやるという話が出てきて、タイ航空社長が慌てて弁明する羽目になった。
タイ航空社長がその後、意見の違いが発生するのは、当然であり、再生計画策定委員会を変更することはないと発表した。
隙を見てある弁護士団が競合の再生計画を企画し、国内の債権者にロビー
3525億バーツもの負債を抱えているタイ航空だが、一部の弁護士団が国内の債権者にロビーする話が出ている。タイ航空が提出した再生申請に対する異議申し立て期限である8月13日が徐々に近づいてくるに連れて、債権者の票を十分確保できれば、異議申し立てができる。
タイ航空は、現在、主要債権者である海外の航空機リース会社との交渉をメーンに進め、すでに21社との交渉を済ませ、返済の約束と引き換えに、タイ航空の再生案に支持する方向である。(機材関係リースの負債合計は、1452億バーツにのぼっている。)また、国内の金融機関とも徐々に交渉を進め、100億バーツほどの借金に対する解決策を模索している。
それに対して、タイ航空が発行した社債は、741.8億バーツあり、多くは、公社、大学や政府系組織が運営する貯蓄組合によって保有されている。農業協同組合省が規制当局として一度被害を受けた貯蓄組合に対して説明会を行ったが、まだ具体的な交渉は始まっていない。再生計画に支障がないよう、これらの社債保有者に対してもちゃんと交渉をするようタイ航空の取締役会から指示が出された。
果たして、タイ航空の定年退職基金がまだ残っているでしょうか
タイ航空の社員1600名が共同署名で定年退職基金を確認するようタイ航空の社長に書面提出をした。2019年12月12日に開示された情報によると、積み立てられた定年退職基金の規模は、36億バーツあり、社員がすでに5回ほど書面提出をしたが、まだ、社長からちゃんとクリアな回答を得られなった。どの銀行にいくら預けているか、社員たちははっきりした回答を求めている。
定年を迎える社員は、毎年100名以上いて、法律上、会社が定年退職金を支払う義務がある。定年退職金を別の借金返済にあててしまったとか、あるいは、タイ航空の基金は法律を根拠とせず単なる相互扶助と意見する法律顧問がいるとか、いろんな噂が社員たちの不安を煽っている。国家公務員や公社の定年である9月末には、どのような結論を迎えるか、引き続き注視する必要がある。
引用元
- https://www.bangkokbiznews.com/news/detail/883149
- https://mgronline.com/business/detail/9630000055283
- https://www.isranews.org/article/isranews-news/89058-thai_bankrupt.html
- https://www.sanook.com/news/8171366/
- https://thestandard.co/thai-airways-hires-4-large-companies-to-prepare-for-the-rehabilitation-plan/
- https://www.thansettakij.com/content/business/441533
- https://www.thansettakij.com/content/business/442438
- https://www.bangkokbiznews.com/news/detail/889891
- https://www.thansettakij.com/content/business/442004
- https://www.thebangkokinsight.com/397891/